-遺伝性疾患に治療の可能性拓ける-
ガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)助教、杉山弘 本研究科化学専攻教授、日高拓也 同修士課程学生らの研究グループは、独自に開発した化合物をミトコンドリア内のDNAに結合させることで、神経・筋肉疾患に関わる遺伝子を抑制することに成功しました。
本研究成果は、2017年6月16日に米国の科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
当研究室ではDNAの配列を読み、配列選択的にDNAに結合することができるピロールイミダゾールポリアミドの研究に取り組んできました。今回の研究をさらに発展させ、将来的にはミトコンドリアDNAを標的とした新たな疾病治療法が開発できるよう研究を続けていきたいと思います。
概要
DNAは、転写因子と呼ばれるタンパク質がその配列に結合して情報を読み取り、書き写すことで、遺伝子発現(DNAの持つ情報を元に実際の生体現象を生み出す作用)を起こします。「ピロールイミダゾールポリアミド(PIP)」という化合物は、生体細胞内の特定のDNA配列に結合することで、転写因子がDNA鎖の特定の部分と結合するのを防ぎます。これによってDNA情報の転写を抑制、疾患の要因となる遺伝子の発現を抑制します。
DNAは、その大半が核の中にありますが、ミトコンドリア内にも少量のDNAが存在します。PIPは、核膜を通過して核内のDNAと結びつく能力を持っていますが、ミトコンドリア膜を通過することはできません。本研究グループは、ミトコンドリアのエネルギー障壁を乗り越える力を持つ「ミトコンドリア透過性ペプチド(MPP)」によってPIPを補完することで、PIPがミトコンドリア膜を通過するように改変することに成功しました。
MPPを結合したPIPは「MITO-PIP」と呼ばれ、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)のDNAへの結合をブロックするよう設計されたものです。TFAMはND6と呼ばれる遺伝子を含む様々なミトコンドリア遺伝子の転写に大きく関与しています。本研究グループはTFAMを阻害するMITO-PIPが標的配列に高い親和性を示すことを発見し、与えるMITO-PIPの濃度の違いによって、ND6遺伝子の発現を60%から90%低下させました。次に、蛍光を発する分子を標識としてMITO-PIPに付け、特殊な顕微鏡を使って、MITO-PIPが細胞の核内ではなくミトコンドリア内部に集まることを確認しました。
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